概要

製造現場では、部品の位置や姿勢が毎回わずかに異なるため、あらかじめ決めた動作だけでは対応が難しい作業があります。本研究では、人がロボットを遠隔操作した実演データから動作を学ぶ模倣学習を用い、ボルトの穴へワイヤを挿入する作業の自動化に取り組みました。穴の位置とワイヤの姿勢が不確実な場合でも、ステレオカメラ画像から直接ロボットの動作を生成します。

研究背景

安全ワイヤの挿入では、ボルトの締付角度によって穴の位置が変化し、さらにワイヤ自体の向きや曲がり方にもばらつきが生じます。従来は、穴とワイヤの位置・姿勢を個別に推定し、複数段階のルールを設計する必要がありました。しかし、細いワイヤの状態を正確に認識し、接触後の変形まで想定したルールを作ることは容易ではありません。

穴位置とワイヤ姿勢の二つの不確実性
図1 穴位置とワイヤ姿勢の二つの不確実性

研究内容

人がステレオカメラ映像を見ながらロボットを遠隔操作し、そのときの左右画像と動作を教師データとして収集しました。学習した方策は、左右画像に含まれる視差を利用して奥行き関係を捉え、明示的な三次元位置推定を行わずに挿入方向を出力します。提案モデルでは、左右画像を同時に処理するCNNと、時間的な変化を扱うLSTMを組み合わせています。

また、挿入中にワイヤがボルトへ接触して曲がった場合に備え、通常の挿入動作に加えて、いったんワイヤを引き戻す復帰動作も学習しました。弱い初期モデルに作業を試行させ、失敗した場面だけ人が介入するデータ収集法(Labeling with Human Intervention)により、挿入と復帰のデータを効率よく集めています。

ステレオ画像から挿入・復帰動作を生成する提案モデル
図2 ステレオ画像から挿入・復帰動作を生成する提案モデル

実機ロボットを用いた評価では、提案モデルは36回中35回の挿入に成功し、成功率97.2%を達成しました。ワイヤがボルトへ接触して曲がった場合にも、状態を検出して引き戻し、再び挿入を試みることで成功できることを確認しました。

接触後にワイヤを引き戻して挿入を成功させる復帰動作
図3 接触後にワイヤを引き戻して挿入を成功させる復帰動作

本研究により、対象物の位置・姿勢にばらつきがあり、接触によって状態が変化する柔軟物の挿入作業に対しても、人の実演から一連の対応を学習できることを示しました。

発表文献

丹羽靖治,加藤邦人,中島康博,八田禎之,伊藤和晃:「穴の位置とワイヤ姿勢が不確実な挿入作業のための視差に基づく模倣学習」,電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌),Vol.143,No.9,pp.862–870,2023.