Research //研究
Overview 〜概要
理論としては確立されている肌検出処理をハードウェア上に実装し、その動作の検証や有用性の確認を行っています。
カメラを用いてジェスチャー認識、表情認識など人の存在や挙動を検出・認識したい場合に画像中から肌の検出を行うことが重要となります。
ディジタルカメラの顔認識,
ドライバーの居眠り検出,
ジェスチャーインターフェース, etc...
そこで、本研究室では「近赤外マルチバンド光源を用いた肌検出法」という肌検出アルゴリズムを研究しています。
この手法は複数波長の近赤外光を用いて画像中からマテリアル(素材)を特定する手法です。
なので、色を用いる手法とは異なり、表面の色に左右されずに肌という素材そのものを検出することができます。
私の研究は、この肌検出手法をFPGAというLSIを使ったハードウェア上へ実装しています。
ハードウェア上へ実装することで、高速かつ小型で完全に同期した装置を作ることができます。
こうして作られた肌検出モジュールを使ったアプリケーションの可能性を広げることが最終的な目標となります。
Skin Detection Method by using Multiband Near-IR
〜近赤外マルチバンド光源を用いた肌検出法
図1が肌・髪・綿布の分光反射特性です。
分光反射特性とは、赤く見えるものは赤い光をよく反射するから赤く見える、というように波長に対する光の反射特性を表したものです。

図1 肌・髪・綿布の分光反射特性
fig.1. Skin, Hair and Cotton's spectral reflectance characteristics.
色と表現されるものは人間が見ることができる光(可視光)の領域での反射特性が現れたもので、可視光は約390nm〜750nmと言われています。
cf) 可視光線 - Wikipedia 
しかし、光の反射は可視光領域だけでなく、さらに波長の長い赤外領域でも起こる現象です。
その赤外領域のうち、可視光に最も近い領域を
近赤外領域 といいます。
そこで、800nm〜1000nmの分光反射特性に注目すると、肌において970nm付近で光の吸収が起こっていることが分かります。
この光の吸収を検出することができれば、肌であるということが特定できるわけです。
なお、近赤外領域において、可視光領域のように
色 という概念はありません。
よって、本手法は
色を使わない 新しい手法です。
では具体的にどのようにするかというと、特性の勾配を見ることで肌が検出できます。
970nmを波長F1とし、もう一つ任意の波長F2(たとえば870nmあたり)を選びます。
そしてF1の画像とF2の画像を撮影し、引き算(差分)をしてその勾配をみます。
(F1画像) - (F2画像) とした場合、肌であれば、F1画像のほうが値が小さいはずなので
負の値 が出てきます。
逆に言えば、負の値であればその領域が肌であると言えるわけです。
これが近赤外マルチバンド光源を用いた肌検出法の原理です。
Implementation on Hardware
〜ハードウェアへの実装
上記肌検出法をハードウェアへ実装します。
ハードウェアへ実装することで以下のような効果が期待できます。
- リアルタイムな高速肌検出
- 同期ズレの起こらない正確な肌検出
- 小型化によるポータビリティの向上
世の中に技術が広まるには、まずは実際に動くものをつくることから始まります。
特に技術の可能性を示すためには動くものがなくては証明することもできません。
そこで私は、上記肌検出法をハードウェアへ実装し、さらにそれを使って手法の有用性と可能性を指し示すことに取り組んでいます。
FPGA
〜FPGAの利用
ハードウェアへ実装するにあたって使っているLSIがFPGAです。
FPGAの概観を図2に示します。
図2のFPGAはBGAパッケージというもので、チップの下面に端子がついているものです。

図2 FPGA概観
fig.2. Outline of FPGA.
FPGAとは
Field
Programmable
Gate
Array の略で、現場でプログラム可能なゲートアレイ(論理素子)です。
つまり、専用IC(ASIC)のように特定の機能のために作られたものではなく、書き換え可能なので試作機などのプロトタイプに用いられたり、後で回路の変更が必要なデバイスに使われるLSIです。
FPGAはPICのようなマイコン(プロセッサー)とは根本的に異なり、内部にスタティックな回路を生成するため高速な処理が可能です。
また、マイコンのように命令を1つづつ実行するのではなく、回路なので並列同時処理が得意です。
画像処理をハードウェアに実装する場合、次のように並列に同期処理が行えることが重要となります。
そのため、本研究ではFPGAを使用しています。
- カメラ、メモリ、画像処理などの複数の制御と処理を同時並行で行えること
- 制御および処理において同期処理が行えること
Experience of Skin Detection
〜肌検出実験
実際に作成した装置の概観を図3に示します。

図3 システム概観
fig.3. Outline of Skin Detection Module.
今回作成したシステムは、図4に示すようにFPGAを搭載した画像処理ボードにカメラと光源を接続し、FPGA内で肌検出処理を行った上でその結果画像をPCへ出力するようになっています。

図4 システム概要
fig.4. Overview of Skin Detection Module.
本システムで肌の検出実験を行ったところ肌が検出できていることが確認できました。
その結果を図5に示します。
図5(a)と図5(b)が任意波長870nmと肌吸収帯波長970nmの画像です。
970nmにおいて吸収が起こっているため、870nm画像に比べて970nm画像が暗くなっていることが分かると思います。
そして、その差分結果のうち負の値を取る領域を二値化した結果が図5(c)になります。
若干のノイズは含まれますが、手の形状がはっきりととれていることが確認できると思います。

(a) 870nm画像
(a) 870nm image.

(b) 970nm画像
(b) 970nm image.

(c) 肌検出結果画像
(c) Experimental result.
図5 肌検出実験
fig.5. Experimental image.
Feature Works 〜今後の課題
一応形としてシステムは完成したもののいろいろな問題点が見えてきました。
それらを解決することが今後の課題となります。
- カメラの近赤外感度特性およびダイナミックレンジを改善(カメラの選択)/li>
- 外部メモリ利用による高解像度処理の実現
- 画像のノイズ対策
- 光源位置および光の照射強度に関する考察
- 撮影可能距離の延伸
- 外乱光に対する影響の考察とその対策
Paper //論文
- 冨野達也:”FPGAに実装した近赤外人感センサの研究”,岐阜大学 工学部 卒業論文
- 冨野達也, 山本和彦, 加藤邦人:"近赤外マルチバンド肌検出法のFPGAへの実装とその応用", SSII2009, IS1-28(CD-ROM)(2009)
- 冨野達也, 山本和彦, 加藤邦人:"近赤外マルチバンド肌検出法のFPGA での実現", 平成21年度電気関係学会東海支部連合大会,O-021(CD-ROM)(2009)
- 冨野達也, 山本和彦, 加藤邦人, 竹内麻梨子:"ジェスチャー認識へ向けた近赤外肌検出法のハードウェアへの実装",電気学会情報処理・産業システム情報化合同研究会, pp.39-44(2009)