概要

木材製品の品質は、傷や割れの有無だけでなく、木目の規則性、色合い、印象など、人の感覚に基づいて評価されます。本研究では、熟練検査員が暗黙的に用いている判断基準を、もつれ解き表現学習によって画像中の評価軸として取り出し、木目画像の官能検査を自動化する手法を提案しました。

研究背景

官能検査は、検査員の経験や感性に依存します。木目の「良さ」を言葉や数値で明確に表すことは難しく、検査員間で評価を統一しにくいことが課題です。また、木目は一枚ごとに模様が異なるため、一般的な異常検知のように、良品画像に共通する外観だけを学習する方法では十分に扱えません。

木目画像の官能検査における提案手法の全体像
図1 提案手法の全体像

研究内容

まず、StyleGAN2を木目画像で学習し、多様な木目を表現できる潜在空間を構築します。次に、検査員へのインタビューと主観評価実験から木目を表す評価語を収集し、回帰分析とSHAPを用いて良否判断との関係を分析しました。その結果、「線や柄がはっきりしている」「バランスが取れている」「彩度が高い」など、良否に影響する9種類の評価語を選定しました。

選定した評価語ごとに、InterfaceGANを用いて潜在空間上の評価軸を発見します。評価軸に沿って潜在変数を動かすことで、木目の規則性、色、線の強さなど、特定の印象だけを段階的に変化させた画像を生成できます。これにより、検査員が木目のどの特徴を見て判断しているかを視覚的に説明できます。

9種類の評価軸に沿って生成した木目画像
図2 9種類の評価軸に沿って生成した木目画像

さらに、生成画像に対する主観評価結果から、各評価軸上で良品・不良品と判断される範囲を連続的な分布として推定します。検査対象画像をStyleGAN2の潜在空間へ写像し、9本の評価軸上の位置から木目の良否を定量的に判定します。

評価軸ごとに推定した良品と不良品の分布
図3 評価軸ごとに推定した良品・不良品の分布

研究成果

木目画像を用いた評価では、提案手法のAUROCは0.739となり、AutoEncoder(0.462)、Deep SVDD(0.650)、PatchCore(0.652)を上回りました。単に外観の異常を探すのではなく、検査員が重視する感性的な要因を評価軸として表現したことが、木目の官能検査に有効であることを示しています。

本研究は、熟練者の暗黙知を画像生成モデルの潜在空間上で可視化・定量化することで、官能検査の自動化だけでなく、判断根拠の説明や検査基準の共有にもつながる技術です。本研究は、精密工学会にて精密工学会論文賞動的画像処理実利用化ワークショップDIA2024にて研究奨励賞を受賞しました。

発表文献

中村友哉,加藤邦人,寺田和憲,高橋通一,塩澤安生,相澤宏旭:「もつれ解き表現学習を用いた木目画像の官能検査」,精密工学会誌,Vol.89,No.12,pp.973-978,2023.

受賞

精密工学会論文賞,中村友哉,加藤邦人,寺田和憲,高橋通一,塩澤安生,相澤宏旭:「もつれ解き表現学習を用いた木目画像の官能検査」,精密工学会誌(2024年3月13日受賞).

DIA2024研究奨励賞,中村友哉,加藤邦人,寺田和憲,高橋通一,塩澤安生,相澤宏旭:「もつれ解き表現学習を用いた木目画像の官能検査」,動的画像処理実利用化ワークショップDIA2024(2024年3月2日受賞).